世界の中心に置かれている透明の地球は、
世界であり同時に自分でもある。
自分自身の危機的覚醒に直面し、
激しい抵抗と分裂の恐怖に圧倒される。
抑圧された、闇の感情が爆発的に流出し、
その激しさに身も心も凍りついてしまうほどだ。
剣が抜かれ、おびただしい血が流される。
世界から無いものとして、
無視され続けてきた怒りと憎しみが、
命がけの抵抗を示し、姿を表す。
決して外に出てはいけないと、
日の当たることすら無い座敷牢の中に押し込み、
閉じ込めてきた。
しかし、覚醒の高次元から降り注ぐ強靭な光は
その矛盾を見逃さない。
強い光が闇を一層深くし、
深まった闇はその力を得て、
闇から激しく声を上げる。
抑えても、抑えても、その声はとどまることはない。
地球は、その下に黒い宇宙卵を隠している。
しかし、その存在は反転した硝子の器の中にすでに明らかだ。
矛盾と抑圧の名のもとに、
闇に押し込められてきた感情は、
高次元の強靭な光、すなわち
「無条件の愛」によって、
命がけの抵抗をする。
「ここにいるぞ。目を開け。耳を澄ませ」
「この声に気づかぬ限り、お前を苦しめることをやめはしない」
自己の中にある、その声は暗い宇宙卵から聞こえてくる。
小さな子供の声だ。
かつて自分が小さな子供だった時、
訴えたかったのに、訴えることを堪えて抑えた、
たくさんの思い。
その小さな子供はずっと自分の中で泣いていた。
その鳴き声は、ずっと昔から聞こえていたが、
やがて聞こえなくなり、そんな存在がいたことさえ忘れ去られていた。
泣くことも、怒ることも、助けを求めることも、
自分の望みを伝えることさえも禁じられてきたのだ。
その子供は深く損なわれ、傷つき、悲しみ、怒り、憎んでいた。
世界を憎み、親を憎み、そしてその大切な感情に、
一切目を向けることなく、
正義の名のもとに、平和の名のもとに、真実を抑えこむことを許してきた
私自身に対して、激しい怒りをぶつけてきたのだ。
高次の覚醒が、この子どもと向き合うことを強いた。
もはや逃れることもできない。
逃れる場所はどこにもない。
激しい苦痛が体を傷めつけてくる。
心臓がきしみ、胸が押しつぶされ、
体が引き裂かれそうな恐怖が襲いかかる。
死んだほうがましだと思える苦痛だが、
死ぬことも許されない。
やめてくれ、助けてくれと何度懇願しても、
それが中断されるわけではない。
たくさんの存在が助けてくれている。
祈ってくれている。信じてくれている。
4人の神官は天と地を結び、
太陽と惑星が世界を守り続けている。
神官に呼ばれ、宇宙の意識体である龍と不死鳥が、
壊れかけた世界をもう一度作りなおそうとしている。
カーリーが破壊を促し、シヴァが再生を司る。
ラーの鏡を持つイシスと、羽根を広げるイシスもまた、
死の世界から新たな生命を作り出し生み出していく。
滅びの主であった阿修羅は再生への叡智を司り、
慈悲の主である観世音菩薩は全力で癒やしを注ぐ。
「無条件の愛」によって。
しかし、どれほどの力添えがあったとしても、
数々の守護を感じているとしても、
やりとげるのは自分ただ一人。
変わってくれるわけではないのだ。
苦痛が、今までずっと抑圧に全勢力を使っていた、
抵抗を緩める。抑えられない感情に、抵抗すればするほど、
苦痛はまし、逃げる場所はない。
手放すのは困難だが、苦痛を和らげるにはもはやそれしかなく、
諦めながら、何度も何度も、許しを請うように、
手放していく。
何度も崩壊しそうになる。
この困難を超える力は自分にはないと思える。
私には無理だ、許してくれ、助けてくれと叫ぶ。
でも、彼らはただ信じて、見守っているだけだ。
「無条件の愛」を送り続け、
必ず成し遂げられるに違いないと。
もし成し遂げることなく死んでしまったとしても、
それもまた仲間が増える祝福だと。
二体のイシスが捧げもつ木々は癒やしの樹木であり、
叡智であり、死と再生へのエネルギーであり、
4つのクリスタルがこの神聖な儀式の場を守る。
覚醒とは命がけなのだと悟る。
いままで何もわかっていなかったと知り、
何度も懺悔をせずにはいられない。
自分の傲慢さに対して、無知に対して、
理解の浅さについて、感謝の足りなさについて。
なぜなら、すべてがあたりまえだと思い込んでいたからだ。
この世界があるのは、私が私としてあるのは、
どれほどの導きと支えのもとになされているか。
私の自由な意志を尊重して、眼に見えないように、
気づかないように、繊細な心配りの中で、
行われてきたか。
私は手を伸ばし、世界に触れてみる。
そこに触れるのは世界ではなく、私の一部だ。
空を飛んで行く白鳥も、薄汚れた金網も、
空も雲も、走り過ぎていく電車も、
すべてに私が含まれている。
苦しみと痛みの向こう側に、
無条件の愛が見えてくる。
抑えこまれた暗黒の血の池の底に、
暖かくて柔らかくて、純粋な愛を
見つけ出すことができるとき、
暴力と混沌さえもが愛の一部なのだと理解する。
私は一度死ななくてはならない。
自らの首を剣で切り落とし、
血まみれの首を自ら抱かねばならない。
それが、私の中の小さな子供の憎悪なのだ。
その憎悪に、全力で私は謝らねばならない。
無条件の愛と、宇宙の祝福のすべてを注ぎ、
彼に謝罪を示さねばならない。
「おまえをずっと閉じ込めていて悪かった」
「すまなかった。私のせいだ」
そういって首を差し出し、一緒に泣くしか無いのだ。
そう覚悟を決め、命がけの謝罪をしたとき、
「おまえの謝罪は聞き届けられた」
と彼は言った。
「おまえはこれほどの守護の中で生きていることを、
誇りに思わねばならない。
何百も積み重ねられた怒りの憎しみさえ、
癒やしてしまう愛と祝福を与えられる
無数の存在の手助けがなければ、
私はお前を許しはしなかった」
私の首は、切り落とされることなく、
彼は私を許したといい、
開け放たれた座敷牢から彼は外に出た。
明るい光を一身に浴びて、
彼は「世界は美しい」といって泣いた。
私も彼を抱きしめ、一緒に泣いた。
私はずっと泣くことができない人間だった。
泣くことを抑えこまれ、我慢することを望まれ、
いつしかそんな感情が自分にあったことさえ
忘れ去られていった。
死ぬほども苦痛に直面した時だけ、
ちょろちょろとにじみだしてくる悲しみの感情が、
私にとっては何よりも恐ろしかったのだ。
悲しみと涙が、私を壊してしまう。
だから、それを封じ込む。抑えこむ。
それが正義の名のもとに許容され、やがては真実となっていく。
感情が死に絶えたさきの見せかけの平和のために、
多くの感情が座敷牢に押し込まれていく。
亡き者にされていく。
それは世界中の座敷牢へとつながっていく。
世界すべての涙が、押し込まれている場所がある。
それが黒い卵だ。
地球の下にある、黒い卵である。
私のなかのそれも、この黒い卵につながっていた。
この黒い卵が、剣によって2つに裂かれ、
開放と創造が生じるとき、
世界はもう一度、崩壊を再生へと結びつけていく。
高次の聖なる覚醒と創造が始まる。
©Muneo Oishi 2016