たとえ話をしてみよう。身近な人が突然宝くじに当たって、ある日突然三億円が入ったとしよう。そのことをあなたは聞く。彼らは大喜びしている。もうお金の心配はしなくて良くなり、彼らは新しく車を買い換え、家を建て始める。あなたはそれを見ている。どんな気がするだろうか。
それを見て、心から嬉しいと思うだろうか。妬みの心が全く起きないと言えるだろうか。
さらに、身近な人に幸運が訪れたのとは対照的に、あなたは毎日の生活に追いまくられるうちに、借金がどんどん増えてしまったとしよう。カードの返済額がふくれあがり、月末の支払いに窮する有様だ。しかし、幸運な夫婦はクルマや家を買い換えても、まだ二億円近く残っている。
さあ、どうするだろうか？ 「少しだけ貸して」と頼むのではないだろうか。そんなのは嫌だと思っても、現実になればそうするかもしれない。しかし、そういう人はあなただけだろうか？ お金に困っている人は、この広い世間であなただけなのだろうか。
困っていない人はいないほど、大勢の人々がお金に困っているのである。
では、今度はあなたが幸運な夫婦の立場になってみよう。ある日突然、あなたに三億円が手に入った。大喜びで君は家を建て、借金を完済する。それでもまだ、二億円残っている。そんなとき、あなたが大金持ちになったという話を聞きつけて、身内の何人かが「助けてくれ」といって、お金を借りたいと申し出てきた。みなそれぞれ事情があって、大変な状況だ。このままだと破産してしまうか、子供たちを道連れに自殺してしまいかねない。
あなたならどうするだろうか？
貸しても、元の木阿弥になるとわかってはいても、断るには相当なパワーが必要だ。あなたにはお金があるという「弱み」があるから、結局貸してしまうかも知れない。
一度貸したら、何度も貸さなくてはならなくなる。断るのはさらに難しくなるし、もし断ればあなたは、人間ではないかのように罵られるだろう。「だから金持ちなんか」と憎まれるようになる。あなたはそんな人たちから、毎日のように妬みと憎しみを受けなくてはならない。さらに身内を越え、今度は友人知人までもが、あなたの助けを求めてやってくる。みんな、どうすることもできない話ばかりだ。
今まではあなたにはお金がなかった。だから、誰も借りに来なかった。助けも求められなかった。しかし、金持ちになれば別だ。あなたは常に助けを求められる。
今度は業者が聞きつけてやってくる。様々な投資や支援の話だ。これまではネガティブな感情に訴えてきたけれど、今度は欲得に関する感情を刺激する。「こうすれば資産が増えます」「こうすればあなたに有利です」と言うが、ほとんどがあなたからお金を吸い上げるために作り出された楽観的な観測ばかりだ。
そういう人たちとの話し合いに忙殺され、ネガティブな人間関係にさらされることになる。常に自分たちを守ることでせいいっぱいで、お金を楽しさを味わうどころじゃなくなってしまう。
さあ、もしこんなことになったとしたら、あなたはどう思うだろうか。きっと、お金なんて入ってこなければ良かったと思うだろう。
では、なぜこのような現実を引きおこすのだろうか。
それは、ネガティブな欲求があるからだ。お金持ちになって、幸せになりたいのではなく、お金持ちになって、人から認められたい。お金持ちになって、人を支配したい。お金持ちになって、安全になりたい。これはみんな、承認欲求、制御欲求、安全欲求だ。つまり、現在の生活に欲求不満があって、その欲求不満を解消したいから、お金持ちになりたいと願っているのである。
だから、お金持ちになると同時に、ネガティブな欲求まで現実化してしまう。
お金持ちになって人に認められたいと願えば、それが叶ってしまう。すると、確かに大勢の人々がお金持ちになったと認め、すばらしいと褒め称え、そして困っている多くの人に縋られ、頼られ、依存され、奪い取られるようになってしまう。それは、自分が望んだことだからだ。承認されたいという、ネガティブな欲求なのだ。だから、愛ではなく、不安や恐れに繋がってしまう。
お金持ちになって、人を支配したいと願えば、それが現実化してしまう。すると、確かに大勢の人たちが、あなたにお金があるからという理由で、従うようになるだろう。そうなれば、心からの信頼関係ではなくなってしまう。みんながあなたの言うことを熱心に聞き、賞賛し、褒め称えるのは、あなたの人間性やワクワクに賛同したのではなく、あなたの持っているお金に引かれてのことに過ぎない。
お金持ちになって、安全になりたいと願えば、それが現実化する。すると、確かに、お金がないという理由で、生きていけなくなったり、衣食住に事欠き、ホームレスに陥り、一家が離散するような苦しみを全く気にしないで生きていけるだろう。でも、そうなることによって、毎日が緊張感がなく、張りもなく、ヒヤヒヤしたりドキドキしたりすることがなくなり、ワクワクも感じられなくなってしまう。
そういうネガティブな欲求で豊かさを求めても、幸せにはなれないのである。
