一部の限られた知識や能力、経験を持った人しか成功者にはなれないという社会状況の中で、それでも何か成功する方法はないかという夢や希望をあきらめられないというマーケットを狙って、多くの魅力的なサービスが提供された。就職しても成功できないなら、個人事業主として成功すればいいではないか、というのである。
しかしながら、先にも述べたように、リスクが大きすぎて、殆どの人が起業まで行き着くことができない。起業できたとしても、法人でも困難な不景気の現在において、個人が一から起業して経営を軌道に乗せるのは極めて難しい。
そのために、数多くの「個人営業をサポートする」ビジネスが生じた。とりわけ、このような層に多く訴えかけた二つのビジネスがある。一つはネットワークビジネス、もう一つはインターネットビジネスである。
自己実現に目覚めかけながら、自分が何をすればいいのか、何が好きなのか、何に情熱を燃やせるのかがわからない段階で、多くの人がこのビジネスに出くわすことになる。そして多くの人々が、様々な体験(いわゆる苦い失敗の体験)をし、卒業する。
ここで、なぜ多くの自己実現求道者たちが、この両者にハマるのかを分析してみよう。
言葉はよく似ているが、ネットワークビジネスとインターネットビジネスは全く異なる事業である。共通しているのは、両者とも会社に属さないで個人事業として行えるという点だけだ。
ネットワークビジネスは、いわゆるマルチ商法と呼ばれる営業を行う組織体である。
個人で商売をするとなれば、通常は商品を仕入れ、販売することで利益を得ることになる。ところが、個人で安く仕入れることは難しく、まとまった資本金が必要であり、在庫を管理しなくてはならない。広告宣伝も自分でせなばならず、売れれば売れたで売掛や買掛の回収、キャッシュフローの不足などなど、様々な問題が起こる。
しかし、ネットワークビジネスは商品を扱うことを主目的にせず、会員を増やすことを目的とする。商品を直接取引するのではなく、商品を買ってくれる会員を増やし、会員が購入した金額の一部がインセンティブとして還元されるのを期待するのである。このため、まとまった資本金も、在庫管理も、仕入れも、キャッシュフロー管理も不要であり、誰でもはじめられ、誰でも成功するチャンスがあるというのである。
ネットワークビジネス以前の個人事業としては保険のセールスレディなどが一般的だったが、これは個人事業とはいえ会社に登録する必要があり、契約者を増やすことを目的とする点は同様だが、自分が契約した客だけが成果であり、大きな収益を上げるには相応の努力と時間を必要とした。
ネットワークビジネスにおいては、自分の会員がさらに会員を増やせば、それも自分の利益の一部になるため、極端な例を言えば、自分は殆ど何もしなくても、会員の中に熱心な人がいれば、勝手に利益が増えることになる。自分一人だけの力では収益に限りがあるが、自分のチーム全体の売上が収益になるのであれば、よりおおきな利益が期待できる。これが、ネットワークビジネスの想定するレバレッジ効果なのであるが、残念ながら期待通りにはいかない。
ネットワークビジネスそのものに、実はリスクはない。リスクは、ネットワークビジネスに属している人たちのメンタリティにあるのだ。
もし、ネットワークビジネスを営業する人々が皆、その商品なり、サービスを人に語り伝えることが、自分にとって最大の情熱であり、ワクワクであれば問題は生じないであろう。
しかし、現実にはほとんどの人が、自分自身の成功のため、お金のためにやっている。ネットワークビジネスそのものが、商品そのものを普及させるために、一般大衆の「成功したい」「お金持ちになりたい」という飢餓感を満たす手段として、ビジネスを提供しているから当然である。製造企業としてみれば、高額な広告宣伝費を使うことなく、熱烈なファンを獲得できるネットワークビジネスの手法は、メリットのように思えるのだろう。
しかしながら、とくにお金に対してネガティブなメンタルの日本人は、ネットワークビジネスに関わるとこのネガがまともに露出することになる。
「がんばらなければ成功できない」
「成功できるのは努力した一部の人だけ」
「稼ぎたければ好きとか嫌いとか言ってる場合ではない」
「お金を稼ぐのはそんなに甘くはない」
このような、お金に関するネガティブな観念に満ちたまま、周囲の人々に無理やり勧める結果、さまざまなトラブルを引き起こしてしまう。家族や親戚、友人との人間関係を失ってしまったり、高額なセミナーに参加して借金を抱えてしまったり、買わなくてもいい商品を買い込んだり、無理やり買わせて多額の損害を与えたりする。なぜ、このような事態が起こるのであろうか。